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木と鉄の家 KITOTETU
ヒノキの香り成分の効用
 「ヒノキの家は気持ちいい」「ムクの木は気分が落ち着く」。人の五感にもとづくそんな言葉は、ともすれば科学的実証が難しく技術の分野に拾い上げられないことも多かった。が、環境破壊やシックハウスの問題、さらに現代社会に生きる人々をむしばむさまざまなストレスの問題が深刻化する中で、やすらぎ効果なども含めた森林の恵みの再評価がはじまっている。特にヒノキの香りについては、長い歴史の中で評価を受けてきたが、快適性・坑カビ性・抗菌性・消臭効果などついて、最近では科学的なデータも集まってきた。東京大学大学院農学生命科学研究所の谷田貝光克教授に、ヒノキの香り成分にまつわる話とその効用について聞いた。


耐久性に優れるヒノキ
 ヒノキは古くから日本の建築に使われてきた。斧などで木目に沿って割りやすい、というのがその大きな理由のひとつだった。そして、もうひとつの理由は耐久性だ。物理的な強度という意味での耐久性もあるが、もうひとつ木材腐朽菌に侵されにくく、シロアリなどの害虫にも比較的攻撃されにくい、という性質をもっている面も見逃せない。その耐久性の原因が材に含まれる香り成分、すなわち精油だ。
 宮大工の西岡常一さんが、千三百年以上も前に建てられた法隆寺の改修をした時、柱の表面を2〜3ミリ削るとヒノキの香りがしたという話は有名だ。長い間の風雨にさらされて、表面が灰色になっていた柱も、一皮向けば千三百年前の斑鳩の香りを呼び戻したのである。
 ヒノキ心材には、代表的な木材腐朽菌オオウズラタケやカワラタケの繁殖を抑制する働きがある。その活性の本体は、におい成分カジノール類である。カジノール類は、ヒノキ材に特有な落ち着いた香りのもとになっている化合物で、そのひとつアルファ・カジノールには虫歯菌の繁殖をおさえるか働きがある。
 ヒノキの葉や材からの抽出油はMRSAにも殺菌作用を示す。MRSAは抗生物質メチシリンに抵抗性を持ち、院内感染の原因となる困りものである。効能が格段に強い抗生物質でも防ぐことのできない細菌に、植物の成分が効果があるのは興味深い。



森林浴を行うと・・・

 森林内を歩行し森林浴を行った場合、同じようなコースで木がないところを歩いた場合とで血液変化を比較した例が<図1>。出発時に3回の血圧測定を行い、その平均値を0として血圧の変化を比較すると、森林外歩行に比べて、森林内歩行では減少の度合いが大きい。森林浴を行うことで最高血圧が減少することが明らかになっている。
 また、<図2>は副腎皮質から分泌されるストレスホルモンの代表・血中コルチゾールや副腎皮質から分泌される血中ノルアドレナリンの測定を行ったもの。血中コルチゾールは森林外歩行に比べて、森林内歩行では減少。また、ノルアドレナリンも同様の傾向が見られる。これらの例は単に木のにおいの効果だけではなく、森林の複合的な快適性増進効果によるものと言える。



ヒノキのにおいは日本人の心のふるさと
 色調がよく、光沢と芳香があり加工しやすいヒノキは、仏像にもよく使われている。仏像の伝わった頃の飛鳥時代には、仏像は強い香りを持つ白壇が素材だった。
 やがて、国内でも手に入るにおいの強いクスノキが仏像に使われ、平安時代にはいると、ヒノキが素材として使われるようになった。ヒノキの白木の仏像には、白壇ほどの強い香りはないにしても、木肌の美しさは古代の人々の心を奪い、ほどよいにおいが気を鎮めたに違いない。
 ヒノキの床張りの檜舞台は、立派な舞台の代名詞として使われ、ヒノキ造りの家には高級な木造住宅のイメージがある。ヒノキには昔から高級な材としてのイメージがあった。
 庶民的な感じのするスギのやわらかなにおいに対し、どこか気品のある感じを与えるヒノキ材のにおい。いくつかの木の精油を並べて好きなにおいのアンケートをとると、ヒノキのにおいを好きとこたえる人が多い。日本人なら一度はどこかで嗅いだことのあるにおい。それがヒノキである。ヒノキのにおいはわれわれ日本人にとっては、心のふるさとのにおいである。


木のにおいを嗅ぐと・・・
 ヒノキ・トドマツなど針葉樹葉油を揮散させた中で、マウスの運度量を回転ケージを用いて測定すると、1ppm以下の低濃度では、においのない場合に比べ運動量は増大する。<図3>はにおいのない場合の運動量をゼロとし、それよりも運動量の大きい場合をプラス、小さい場合をマイナスであらわしている。
 ヒノキの実験例では0.03ppmで最も相対運動量が高く、トドマツノ実験例では0.08ppmに相対運動量の最高値が見られる。この運動量の増加は、毎日の摂食量・摂水量が一定で体重が毎日一定量増加していくことを考慮すると、単なるにおいの刺激による結果ではなく、快適さのためだと結論付けられる。
 また、1ppm以上の濃度になると、運動量が減少し体重も減少することから高濃度ではストレスの原因となることもわかる。快適さをもたらすにおい成分は、薄れすぎれば効果がないか少なく、濃すぎてもストレスの要因になりうる。




抗菌性にすぐれるテルペン類
 ヒノキの香り成分で、抗菌性をもっているのは、テルペンというもので、よく名前が知られているヒノキチオールやa−ピネンなどの成分を総称してテルペンと呼んでいる。テルペン類のほかに、木にはフェノール類・アルカロイド・脂肪酸などが含まれている。
 テルペン類の中では、ヒノキチオールが有名で、抗菌性が高い。このヒノキチオールは名前に反して、国産ヒノキに含まれる量は少ない。しかし、抗菌性をもつ化合物はヒノキチオールだけではなく、アルファ・カジノールやヒノキオールというテルペンやフェノール性の化合物などがあげられる。これらは国産ヒノキに多く含まれている。ヒノキチオールは、天然物として抽出しやすいし、合成物としても人工的につくりやすい。もっとも天然物だと1kgで20万円もの高価なものになるが。そんなこともあって、ヒノキチオールだけ、名前が売れてしまったきらいがある。実際にはその他にも前記のアルファ・カジノールやヒノキチオールといった抗菌性の高い化合物があり、それはヒバよりヒノキに多く含まれる。しかしこれらは、人為的に抽出するのがまだ容易ではないので、量的に集まらない。したがって、なかなか製品化が進んでいないという状態だ。


材油と葉油の違い
 材油と葉油とは入っている成分はほぼ同じで、50〜100種類のテルペンの成分が含まれている。ちなみにヒノキチオールは材にはあるが、葉にはない。ただ、葉と材とはそれぞれの成分の構成割合がちがう。材油には沸点の高い化合物が多く含まれ、葉湯は沸点の低い化合物が多い。沸点が低いと揮発しやすく、葉からさわやかなにおいが発せられる。これに対して、材から発するのはどっしりとしたにおいで、鎮静する落ち着いたにおいだといえる。ただし、あまり濃度が濃いと良くない。気分が良くなる濃度は、普通は1ppm以下だ。




ヒノキのダニ抑制効果
 ヒノキには消臭作用もあり、ホルムアルデヒドを吸着する働きもある。
 白く薄黄色で見栄えがよく、柱・板などに昔から使われてきた。また、ヒノキのにおいも好まれてきた。においの好みは一種の慣れの部分もあり、たとえば、青森ヒバのにおいは青森の人は好むが東京の人には強すぎるようだ。
 そのほか、ダニを抑制する効果ではヒノキは一番。アトピーや喘息などが今のこどもには非常に多いが、ヒノキづくりの家はそういったものを防ぐ。テルペンのにおい成分の働きによるものだ。このため、ヒノキ精油を床下の合板にしみこませたり、壁紙にしみこませたり、畳シートにしみこませるなどという使い方が試みられている。ある企業によると防ダニシートに入れているヒノキ精油のアルファ・カジノールに、ダニを防ぐ働きがあると明記されている。
 葉の軽やかでさわやかなにおいには、頭をすっきりさせる覚醒作用がある。ヒノキ精油は、室内芳香剤やふとんなどの繊維、床板や壁板などの合板にも入れられて市販されている。居ながらにして森林浴といったところである。


においで脳を刺激する
 こうしてみると、ヒノキは耐久性がよくカビやダニを防ぐという面と、良いにおいで脳を刺激するという両面からプラスになっている。  ヒノキ材を使用したヒノキ風呂が、最近、よく出回っている。お湯で温められた材からはヒノキの木質調の香りが漂う。脳波の測定から、ヒノキ材の香りには鎮静的な作用があることも、明らかにされている。ヒノキのほどよい香りの中で一風呂浴びれば、疲れがとれ気分が安らぐ理由である。  ヒノキ材油はのこ屑、端板等を原料として、蒸留によって採られている。木材の除湿乾燥時にも、副産物として、精油を集めることが行われるようになってきた。丸太生産時に排出される葉から、葉湯も採取されている。残すところなく使用することで、ヒノキの価値を高めることができる。

ムクで使うべし
 そんななかでも、やはり木材はムクで使うのが一番良いと考えている。
 においは、濃くなりすぎないよう、注意をする必要がある。精油にしてしまうと、濃いものがつくれるのだが、自然の木だと人間の害になるほどの濃さにはならない。それに、プラスチックなどの化学製品や集成材と比べると、明らかに肌ざわりが違う。集成材はたしかに、そらないし曲がらないし、耐久性もいいかもしれない。しかし、やわらか味、ぬくもりという点では、ムクの方がすぐれているようである。




木材の成分とVOC(揮発性有機化合物)
 住宅建築に使われる建材・設備機器に含有・添加されている有害物質は、シックハウス症候群をひきおこすものとして社会的な問題になっている。個人差はあるが、喘息・アレルギーなど日常生活に支障をきたすような事例も多い。
 その原因となる揮発性が高く室内に放散しやすい揮発性有機化合物(=VOC)については、ホルムアルデヒド、トルエン、キレンなど14物質について、厚生労働省にて室内濃度指針値が示されていて、これらの物質が含まれていないか使用量の少ない建材を使うことが望ましい。
 木材の成分は自然由来のものだが、そこから揮発する物質は「必ずしも悪いものばかりではなく・・・」という一文があるものもTVOCに含まれている。TVOC(トータルVOC)とは、室内濃度測定の際に検出された複数のVOCの濃度の合計値であり、木材からも揮発する物質があるので、この中に含まれているのが現状。現状ではテルペンだけを測定するのが困難だという技術的な問題もあるものの、木材関係者は有害化学物質と一緒にされていることに問題意識を持っている。


悪臭・VOCを消すテルペンの働き
 <表4>は約60ppmの悪臭を、エタノールで希釈した樹木精油中に通過させたときの濃度減少率を示している。希釈していないヒノキ・トドマツ・ヒバ精油はいずれも、60ppmのアンモニア臭を90%以上消してしまう。精油は希釈すれば濃度減少率(=消臭率)も下がるが、ヒノキ・トドマツ葉油は10%に薄めても60ppmのアンモニア臭を半分の濃度に減少させる。また樹木精油は、二酸化硫黄に対しては5%に薄めても100%の消臭率を発揮する。
 樹木精油にはホルムアルデヒドを吸着し、その濃度を低減させる働きもある。<図5>はその機能を示したもの。ヒノキやヒバの材油は数ppmのホルムアルデヒドを40〜50%除去、さらにスギやヒノキの葉油になると80%以上除去することがわかる。
 樹木精油に限らず、植物自体にも消臭作用、VOCの吸着、除去作用があることが知られている。NASA(米航空宇宙局)は宇宙船の室内環境に300種類ものVOCを見出しているが、これに対してホルムアルデヒドを除去する植物の能力を発表し役立てようとしている。





消臭のメカニズム
 消臭の機構にはマスキング(=悪臭に覆いかぶさる)などによる感覚的消臭、中和・縮合・付加・酸化などの化学反応による消臭、活性炭などによる吸着などの物理的消臭、酸化反応・微生物分解・殺菌などによる生物的消臭がある。樹木精油による消臭は、マスキングによる消臭と化学反応的消臭が主体だ。
 通常の樹木精油は、50種類以上の化学物の混合物。強いにおいを持つものはマスキング作用も強いが、多種類の成分の中には悪臭と化学的に反応するものも含まれる。構成成分が多種類の悪臭成分と反応し、消臭効果を発揮するということにもつながる。